実験スピリッツ

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マンション傾斜問題から学ぶ建設業の限界。

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横浜のマンション傾斜により発覚した施工不良問題が話題になっています。

ぼくは過去に建設業で施工管理をしていたので分かるのですが、建築物にはどうやっても要求される品質に限界が存在します。

マンション傾斜という重大すぎる施工不良は論外です。しかしそれよりも、住民の反応を見ていて「建設業の実態についてもっと知っておいてほしい」と思ったので記述します。

しかし、思っていたよりも世間的には建設業って一般的じゃないんですね。土木工学、建築学は社会の基盤を支える大切なものでありますが、如何せん機械化が難しい業界です。多少はIT化も取り入れて変わってきているけれど、最後は人が全てです。

また、現実を何も知らない学術研究者が「理解しがたい、なぜこんな状況がうんぬん」言っていたで、この事件がどんな状況だったのか解説します。

誤解の無いようにお断りしておきますが、今回のような事件が起きたからと言って、建設業に携わる職人・監督・技術者は常に最大限の努力をしていますから心配し過ぎないでほしいと思っています。

マンションブランドは信頼できる?

マンションを購入された方の声で「ブランドを信用して買ったのに。」「三井だから大丈夫だと思った」という声が多数を占めていたように思います。

確かに、三井不動産レジデンシャルや三菱地所レジデンスなど大手マンションデベロッパーの現場は検査が非常に厳しいので有名です。

デベロッパーには建設業経験者の専門部隊が在籍していて、あらゆる項目を徹底的に検査をします。施工管理に当たっては検査項目を何十項目も設けており、請け負っているゼネコン(ここでは三井住友建設)の担当者が音を上げるほど厳しくチェックします。

その他弱小デベロッパーは検査がゆるいです。全然違います。その点で、大手の方が信頼できることは確か。ただし、弱小デベロッパーでも検査はちゃんとやってますからね。

ちなみに、大手デベロッパーのマンションの価格が高いのは検査に人件費を沢山費やしているからです。工事で使用されている材料は弱小デベロッパーとほとんど大差ないことを考えるとどっちを取るかはお客さん次第ですね。

見た目は全然変わらないけど、見えない部分をかなりしっかり検査しているのが大手マンションです。

しかし、なぜそんなに厳しく検査をしている三井不動産レジでも大きな問題が発覚してしまったのでしょうか。結局検査にも限界があることを示す結果となりましたね。なぜ限界があるのかを理解するには建設業の実態を知って頂かなければなりません。

建設業の実態

記憶に残っていらっしゃる方も多いでしょうが、姉歯事件以降は現場における検査がどこの現場も厳しくなりました。

過去の話ですが、姉歯事件をものすごく簡単に説明すると、現場で使う鉄筋の量を設計図よりも少なくして、施工費用を浮かせた詐欺みたいな事件です。

※※※11/13追記 姉歯事件に関して語弊を与えてしまったみたいですので追記します。建築物はまず設計段階で地震などに対する必要な強度を計算・設定するのですが、その計算書の段階から安全性能を偽装したのが姉歯事件です。その結果、鉄筋を少なくすることが可能になったという話です。※※※

そりゃ材料費を浮かせば業者はみんな儲かって「姉歯さん!ついていきます!」ってなるよね。業者もばれなきゃ儲かる方を選びます。そう、業者はみんな金儲けをする必要があるのです。

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当時はたばこや空き缶などをコンクリート打設前に壁の中に捨てるような行為をしていた職人も多かった古き良きテキトウな時代にあって、この事件は建設業界にとっては衝撃だったと聞いています。

以下のように木を捨てたままコンクリートを打設していたりします。今でこそ小さなゴミでも拾うのが当然ですが、過去には作業中に飲んだ空き缶をコンクリートの中に捨てていたんだそうです。職人のほとんどの方はプライドを持って良い仕事をされていますが、中にはコンプライアンスなんて関係ない人達もいるという事実も知っておいて下さい。

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施工するのは普通のおっさん達

ここでみなさんに知っておいてほしいのは、実際に施工するのは三井不動産レジのような優秀で高給取りの社員じゃないってことです。

安月給で労働環境が悪い中へとへとになっている会社員達が現場監督(三井住友建設)をしていて、もっと環境が悪い下請け現場監督(旭化成建材)と高卒中卒の職人達(施工業者)が作業してるんです。

検査の限界

ちなみに、ブランドを荷った優秀な三井不動産レジの社員は厳しい検査をしますが、作業中はほとんどいませんからね。スケジュール通りに現場をほんのちょっと巡回しに来ますが、現場は毎日変わります。

もし、本当に施工不良ゼロを目指すなら、ずっと現場に張り付かなければ絶対に気が付けません。でも、そんなことをしていては金儲けなんてできない。現場で「ひたすら工事のミスを探す」だけで給料をくれる会社なんてあるはずがありません。

現場の監督や職人はもちろん最善を尽くしていますが、どうにもならない問題だってあります。「もうこんなの直せねーよ!」ってミスが起こるんです。人間ですからミスは絶対にゼロにならない。

だから、どうしようもなくなって検査でバレないように隠蔽することもあります。つまり、現場ではちょっとした施工不良なんて当たり前だと思って下さい。もちろん、今回の杭工事のような重大な問題を見逃すのはあり得ませんが。

例えば、ばれなきゃ全然構造的にも問題ないのに、検査でばれたら500万円くらいかけて工事を手直しするハメになる時もあるんですよ。そんな完璧を求めて無駄遣いしてたら利益が吹き飛んで会社の存続危機です。

その他にもミスが起こる要因は沢山あります。

現場内の職人や監督全員がコンプライアンスを理解しているはずがありませんし、安い給料の割に、持たせられる責任は重大な現場監督達は休みもないのに人材不足でみんなヘトヘト。デベロッパーには工期を迫られ、安い施工費でなんとかやりくりしながら工事をする施工者達。

こんな状況で仕事を続けたら負の循環に陥るのは目に見えています。

特に施工者にとってはマンションなんて関わっても全然儲からないというのがこの業界の相場です。マンションの施工管理は監督達もモチベーションは低いと思われます。しんどい上に儲からないなんてやる意味がないですね。マンションなんてだれも施工したくないんですよ。

たぶん今が品質の限界点です。これ以上を求めるなら、施工管理技術者(現場監督)は育たず大卒は辞めていく人が増えます。

しかし、今回の事件で杭工事の検査は建築基準法から改正され、かなり厳しくなるでしょうね。姉歯事件の時と同様に、建設業者の首が締まる一方でお客様には安心して頂ける状況に改善されると思います。

今回のマンションの施工体制

さて、ここからはマンション傾斜事件を確認してみましょう。施工体制は以下のとおり。

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最上位は三井不動産レジデンシャルが監理者(検査者)、次に三井住友建設は施工者です。この二つは別会社と思って貰って結構です。さらに下請けに日立ハイテクノロジーズ、そして直接工事を行ったのは旭化成建材です。

階層が及ぼす影響

現在のところ、事件は旭化成建材に問題は押しつけられ、三井不動産レジや三井住友建設は知らぬ存ぜぬの対応を貫いています。

なぜ施工主が厳しく検査してOKを出したのに、問題が発覚したら全部下請けの責任になるの?って感じがしますが、その理由は各業者は「契約したら工事の一切が責任」という恐ろしくリスクだらけの請負契約をしているからです。

建設は元請け企業から施工会社が何十社もぶら下がり多層構造です。今回のような施工不良問題の際には、最終的な責任は直接施工した業者に押し付けられることになるのが通例なのです。ああなんてかわいそうな下請け業者。

しかも、日立ハイテクノロジーズとかいう建設業にほとんど関係がない会社が1枚噛んでいます。これははっきり言って工事金のピンハネをしているだけの会社。この会社は工事現場に行くことすらないでしょう。

こんな会社が関わっているから、その下の旭化成建材は施工費がギリギリで悲惨だったと思われます。

ちょっとでも施工ミスして、手直しする必要があれば赤字になるような状況です。しかも、今回データを改ざんしたとされる現場責任者は、旭化成建材のさらに下請け会社の契約社員だったと言います。会社からミスすんなよ、儲けろよというプレッシャーも強かったのではないでしょうか。

建設業の多層構造がこの下っ端の契約社員に重大な影響を及ぼすことになります。

くい工事の現場責任者の心理状況

ここからはあくまでも予想でしかありませんが、事件を推察してみます。

問題となった杭工事は、既成杭という棒状になった大きな杭を地下深くの地盤まで打ち込む工事です。まずは、ボーリング調査で地盤までの深さを測って、既成杭を注文して打設します。それだけの簡単な工事です。

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事件当初、問題の契約社員が言い訳をしていましたね。しかし、インクがなくなった、プリンターが壊れたという言い訳は後付けでした。嘘をついても、少し考えればそんな理由で何本も杭を打ち間違えるはずがありません。また、三井住友建設の記者会見でも、契約社員は杭が短かったのは知っていたと発表。

考えられるのは単純なことです。今回の事件の最大の原因はボーリング調査で地盤までの深さを測り間違えてしまったということです。そして気がつかないまま短い杭を注文して現場に届いてしまったのでしょう。

そもそも、杭工事のボーリング調査って全数検査じゃないこともありますからね。何カ所か掘って調べて「だいたい地盤までこれくらいだな」と目途をつけるだけだったりします。結局、旭化成建材のデータ改ざんは約300件にのぼると発表されています。

news.tbs.co.jp

さて、この状況下で考えられる杭工事の現場責任者の心理状況はこんな感じ。

「打設して気がついたけど、地盤まで杭が届かないぞ!これ以上杭を打ち込んだら、短い杭を使ったことがばれてしまう。かといって、今から杭を注文していたら工期に間に合わない。ゼネコンにも下請けにも叱られる。補修方法はあるけれど、今からやっていたんじゃどっちみち工期が大幅に遅れることになる。しかも手直ししようにも工事をやり直す金がない。旭化成建材にも立場が弱いから金が足りないとは言えない。すぐにはバレることじゃないし、いっとけ!でも証拠は隠滅しとかなきゃ」

ここまでの問題が発覚すれば、普通はあり得ないと思いますが、色々な事情が重なって最悪の決断をしてしまったのではないでしょうか。

杭打ち専門職の匿名投稿

はてなダイアリーで匿名投稿された記事が拡散していました。(今は削除された模様)

僕は杭打ち工事の専門業者ではなかったので、どこまでひどい状況なのかは知りませんが、この記事では旭化成建材よりひどい杭業者はたくさんあるとのことです。僕が経験から判断する限りこの投稿者はウソをついていないと思っています。

以下、魚拓より

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マンション購入検討中の方へ

ここまでで、建設業で施工不良が起こるのはあり得ないことじゃないと理解していただけたのではないでしょうか。

そして、マンション購入を検討されている方に申し上げたいのは、デベロッパーだけを見るのではなく、施工業者が重要だということです。大手ゼネコンなどは優秀な技術者を育て、自社の威信にかけても施工不良を撤廃する努力をしています。

************以下11/14追記と訂正************

現場に関して豊富な経験のある方からコメントを頂いたので訂正させて下さい。

マンション購入の際は、施工業者(ここでは三井住友建設)や下請け業者、施工体制を見るだけでなく、同一グループが設計・施工・販売・管理までを一貫して行われているか確認して下さい。今回のように万が一欠陥が発覚した場合、三井住友グループが全面的な責任を取ってくれます。購入者にとっては建て直しまで責任を取ってもらえるため、最高の保証が用意されています。そういった意味で、横浜傾斜マンションを購入された方々の判断は間違っていませんでした。

***************ここまで************************

まとめ

あるニュース番組で専門家が「杭の重要性を知っていれば、考えられないことだ」と言っていました。確かに杭工事は絶対に手を抜いてはいけない工程のひとつです。

しかし、建設業に携わる人間ならおそらくみんな思っているはずです。「しっかり地盤まで届いていない杭なんて世の中には結構あるだろうな」と。

そして専門家には「現場を知らない人間が机上の空論ばかり語ってるじゃないよ」と言いたい。現場で働く人間は慈善事業をやっている訳ではない。利益を求めて行動していることをよく知っておいて欲しいと思います。

建設業には素晴らしい技術を持った技術者達が沢山います。ただし、現状の体制では品質に限界があるということです。

以上、ありがとうございました。